みんなに読んでもらいたいおすすめ小説5選【日本文学編】
最近は更新頻度が落ちてきていますが、ぼちぼちやっていきたい...
さて、前回は「みんなに読んでもらいたいおすすめ小説5選【海外文学編】」と題して紹介しました。↓
みんなに読んでもらいたいおすすめ小説5選【海外文学編】 - 仄暗いほど柔らかい
今回は日本文学編です。よろしければ読んでみて下さい。前回同様、順序は特に関係無しで、どれもおすすめです。
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【内容紹介】
「性」以前の澄明な精神を求めて、自らを〈僕〉と称する女子高生徒。17歳のうつろいやすい魂とジェンダーのうっとうしさを描いて、時代の皮膚を垂直に刺す第9回「海燕」新人文学賞受賞作。
この作品を知ったのは、センター試験の過去問でした。もはや問題を解くよりも、物語自体が気になってどうしようもありませんでした。
91頁という短い頁数で描かれるのは《僕》の学校生活。自分の存在が鬱陶しくてたまらない。女であることも、そもそも生まれてきてしまったこと自体も。繊細な悲しみや痛みの伴う《僕》を変えてゆくのは、他でもない《私》である。
美しく純粋な穏香、彼女とのたわいのない会話さえも、僕が僕を見つめさすには十分で、酷く痛みを伴う。《私》を手に入れること。彼女にとっては刹那の安心でしかないという悲しさ。いつかまたぽっかりと穴の開く日を思いやるような嘆き。
残念なことに絶版なので、図書館で借りるかAmazonで中古を買うかですが、中古価格がいかんせん高いです。いや、でも買う価値はあると思います。
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2. 青木淳悟『四十日と四十夜のメルヘン』
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【内容紹介】
配りきれないチラシが層をなす部屋で、自分だけのメルヘンを完成させようとする「わたし」。つけ始めた日記にわずか四日間の現実さえ充分に再現できていないと気付いたので……。新潮新人賞選考委員に「ピンチョンが現れた! 」と言わしめた若き異才による、読むほどに豊穣な意味を産みだす驚きの物語。綿密な考証と上質なユーモアで描く人類創世譚「クレーターのほとりで」併録。
始めて読んだとき、私は全く意味が分からないと投げだした。確か中学生の頃のことである。しかし、数年後に読み返した時、この小説の中に描かれている構造にはっとした。その時もすべてを把握できていたわけではなく、何かが、この小説では何か得体の知れない歯車が回っているのだと感じたのだ。青木淳悟は割とそういう作家である。
始めて読んだならばきっと戸惑う。だが、きっと好きになる要素をこの小説は豊潤に抱えている。
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3. 伊藤計劃『ハーモニー』
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【内容紹介】
21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、 人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。 医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、 見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア"。 そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―― それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、 ただひとり死んだはすの少女の影を見る―― 『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。
「トァンはさ、私と一緒に死ぬ気ある…」
優しさが人を押し潰す。まるでひっくり返ってしまったかの様な世界で、霧慧トァンは螺旋監察官として停戦監視の職務をこなしながらも、少女時代に、共に自殺を図った御冷ミァハとの約束を破り、ミァハだけを死なせてしまったことを想い返す。御冷ミァハは三人のカリスマ、更に読者にとってもカリスマの地位を揺るがない。
ミァハの思想を受け継ぐかのように成長していったトァンの目の前で、もう一人の共犯者被れ、キアンはナイフで自殺。それと同時に世界各国で広がった自殺。行く果てに彼女の影。
正直日本SFの最高峰だと思っています。物語の構成は勿論のことだが、リーダビリティは圧倒的に良い。「優しさは対価として優しさを要求する」、、ふむふむ。伊藤計劃の作品はハーモニー以外の作品も傑作しかないので、安心して買ってみて下さい。
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【内容紹介】
盲目の三味線師匠春琴に仕える佐助の愛と献身を描いて谷崎文学の頂点をなす作品。幼い頃から春琴に付添い、彼女にとってなくてはならぬ人間になっていた奉公人の佐助は、後年春琴がその美貌を何者かによって傷つけられるや、彼女の面影を脳裡に永遠に保有するため自ら盲目の世界に入る。単なる被虐趣味をつきぬけて、思考と官能が融合した美の陶酔の世界をくりひろげる。
もはやこの作品の魅力は言わずもがなであり、読んでいないならば読んでほしい。
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【内容紹介】
蛇のように舌を二つに割るスプリットタンに魅せられたルイは舌ピアスを入れ身体改造にのめり込む。恋人アマとサディスティックな刺青師シバさんとの間で揺れる心はやがて…。第27回すばる文学賞、第130回芥川賞W受賞作。(解説/村上 龍)
価値観が崩れ落ちる音を聞いた。
解説で村上龍も言っていたが、この小説の最後の方に、どうにも解せない文章が出てくる。(どういう文章なのかは読んでみてほしい。)しかし、それは理解を超えているというか、思考回路の深層の更に奥深くに眠っているようなものなのである。
芥川賞の選考委員である村上龍は、一つの作品に対しての選評を載せ、後の作品に関しては全く触れないことが多い。それはきっと蛇にピアスに現れているような表面的でなく深層から呼び起こしたかの様な描写が、昨今の作品にみられないからではないかと思っている。(まあ選考委員なのだからしっかり全部批評した方がいいとは思うが。)
有名な又吉直樹「火花」の選評で、[文章はうまいが、新人作家特有の異常さや欠落が見られない]と書かれていた。そういうのを求めているんだろうなと思った。