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舞城王太郎はエンタメか純文か / 芥川賞を取れるのか / 突出したリーダビリティに潜むもの

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舞城王太郎はエンタメか純文か】

 私が舞城作品を読んでいて思うことは、実際に「今」読んでいるこの時が作品のピークなのではないかという事である。端的に言って余韻が少ないと感じる。それは特に短編で現れることが多い。最近「短篇五芒星」を読んだのですが、はっきり言って全く面白くなかったし、芥川賞候補になり得た理由が分からなかった。しかし、読み進める上で特に苦痛は無かった。これはリーダビリティのお陰でしかない。

 因みに収録内容は、流産について考え始めてしまった男「美しい馬の池」。姉の結婚相手は、人間の姿をしてはいるが実際には鮎であるとして描かれる「アユの嫁」。有名な怪談、四点リレーを実際にやってみる「四点リレー怪談」。病気風な男に体を持ち上げられ、バーベルになる男「バーベル・ザ・バーバリアン」。恋愛と混ぜて噂話の真実に出くわす「あうだうだう」。一番マシだったのは「バーベル・ザ・バーバリアン」かな。バーベルになってしまったことがいけないことだったのだ、というところが良かったです。

 さて、舞城作品には、超口語文体、それに伴うリーダビリティ、更に遠慮のない描写が特徴的だ。これは読めばすぐに感じることだろう。これにより、他の作品とは一線を隔しているわけだが、読者はそれをどう読むだろうか。

 舞城作品では突飛でありながら、読者を不思議と納得させるような論理がしばしば現れる。「ディスコ…」に出てくる折り返し宇宙論が良い例だ。更にミステリー要素も多く、「世界は密室で…」や「NECK」などでは推理シーンがある。そしてそのトリックもかなり突飛で、常識を超えていて面白い。その意味でも読者は飽きずに楽しめると言える。更に言いたいのは、エンタメと純文学の混合が感じられるという事だ。ディストピアもののSF小説なんかでは、現代とは倫理が明らかに真逆だったりすることで、読者に実生活へ当惑を与えたりするが、それと同じ様に、舞城作品の中に現れる不思議論理や混沌にも同じ効果がある。つまりエンタメであり、純文である。

 舞城作品の読者層はエンタメ派も純文学派もどちらもいるだろう。その意味でも稀有な作家だ。

芥川賞を取れるのか】

 これまでに「好き好き大好き超愛してる」「ビッチマグネット」「短篇五芒星」「美味しいシャワーヘッド」で芥川賞候補になっているが、正直、最初の「好き好き…」が一番良かったと思えるが、そもそも文体で毛嫌いする選考人も多いのでこれからも難しいと思われる。高得点にしているのは池澤夏樹氏や山田詠美氏くらいだろうか。美味しいシャワーヘッド以降も文芸誌にはいくつか短編や中編を寄稿しているが候補にはなっていないし、もう四度も候補になっていることから余程いいものでなければ候補にすらならないだろう。そもそも、芥川賞は妙に一目置かれているけれど、内部の実体的には公平性も無ければ大した権威もないので、今さら舞城が取る意味は無いと思うし、文芸春秋の人も思っているかもしれない。

【突出したリーダビリティに潜むもの】

 私的には舞城は長編が良い。「ディスコ…」並みの長さでなくとも「阿修羅ガール」や「淵の王」の長さが無いとどうにも上手くないように見える。先述したように「五芒星」のような短編の短さでは内容の薄さが拭いきれない。舞城作品において会話は多く、ページ数もそれによって長くなる様な部分があるのだが、気持ちをそのまま文に起こしたような形の自問自答も多い。そんなリーダビリティに引っ張られて読者はぐんぐん読み進めることが出来る。正に読書体験とも言える程、作品に没入できる。自問自答は舞城作品がミステリー的要素を持っている事によるものであるが、それがまるで読者が自分自身が自問自答している様な感触が人によっては得られるだろう。舞城作品ではいつも何か常識を超えた事が起こっている。そのエンタメ的でミステリ的でホラー的な物事がどういう意味を持つのか(トリックか思考論理か、純文的か)によって評価が割れるのだ。

【終わりに】

 「ディスコ…」で言えばあれだけ盛りに盛った話のラストに舞城らしく愛を持ってくるのは、逆に面白い。様な気がする。最近では「龍の歯医者」という映画の脚本をしていて、割と面白かった。

 

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