仄暗いほど柔らかい

晴読雨読の日々をつらつらと...

一番好きな歌人 笹井宏之 「ひとさらい」の好きな短歌5首

 私の一番好きな歌人笹井宏之さん。彼の短歌は数ある短歌の中でも特別で、柔らかく温かい読み心地と上の句から下の句への美しい飛躍を見せてくれるのです。

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えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい

 七五調で普通に読めば「永遠と口から」となるが、そこから急に「永遠解く力」と巧みに変化する。言葉遊びの上手さだけでなく意味合いも美しい。

「はなびら」と点字をなぞる、ああ、これは桜の可能性が大きい

 はなびらという点字を読んで、それが桜かもしれないって、なんて素敵な発想だろう。何か桜を思わせる何かがあったのかもしれない、例えば時期が春だったのかもしれないし、桜の匂いがしたとか、出かけにあの辺りは今桜が咲いているよと聴いていたのかもしれない。なんとも美しい想像的飛躍です。

拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません

 説明なんて必要のない程、これはいい短歌です。

家を描く水彩画家に囲まれて私は家になってゆきます

 発想が楽しい。こういった発想の短歌は他にも数多くあって「風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが」など、普通とは違う視点が楽しい。

美術史をかじったことで青年の味覚におこるやさしい変化

 「かじった」という単語の意味をずらしながら、まるで本当に口の中で美術史をかみ砕いてしまったかのような描写が秀逸で面白い。

 

以上5首が「ひとさらい」の中でも好きな短歌です。正直、笹井さんの短歌はどれを読んでも笹井さんで、まるで真似できる気もしないし、他の短歌と比較も出来ない。私の中で、多分えーえんに輝き続ける歌人だと思います。

 

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土岐友浩「Bootleg」一首鑑賞

 最近までKindle Unlimitedに加入していて、現代歌人シリーズや新鋭短歌シリーズを結構な冊数読み漁りました。その中で、土岐友浩「Bootleg」から一首、好きだった短歌を紹介します。

 

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いちにさんしと数えたら春が来て〈し〉は〈うれしい〉の〈し〉かもしれない / 土岐友浩

 この短歌の恐いところは、〈し〉が単純に〈死〉である可能性をむりやり回避している所だと思います。もし〈うれしい〉ではなくて〈しあわせ〉の〈し〉とかだったら、そのままの意味でとってしまい〈死〉を避けたとは言い難くなるけれど、〈うれしい〉の〈し〉というのは上手い。無理やり避けている感がでている。そしてこの無理やりすぎる点がこの短歌を強くしているのだ。

短歌ムック「ねむらない樹」で好きだったもろもろ

 短歌を知り、短歌を書き始めてからまだ二か月しか経っていない。それで今は歌集を読み漁っているのだけれど、今回この「ねむらない樹」を読んだらまた買いたい歌集が増えた。

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 この創刊号の特集「現代短歌100」はとてもよかった。一首一首にコメントが書いてあるから、自分が読んで分からなくても、ああなるほどほえーってなれます。

 

 現代短歌100から得に気に入った短歌を幾つか。

3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって    

                         中澤系

 何だか怖い。ある意味では善意が込められている様にも思える、だからこそこの鋭い言葉が怖く感じた。

月を見つけて月いいよねと君が言う  ぼくはこっちだからまたね 

                         永井祐

 上と下の転換のスピード感が面白い。

とても私。きましたここへ。とてもここへ。白い帽子を胸にふせ立つ

                         雪舟えま

 これ好きだ。とてもここへ。のような文としてはおかしいのだけど、そこから滲み出てくる彼女の高揚が素敵だ。たんぽるぽる収録。

 作品として掲載された短歌の中なら、蒼井杏さんと木下龍也さんの短歌が良かった。

 

 そもそもこのねむらない樹の根元には笹井宏之さんがいるわけだけれど、「ひとさらい」を読んだ時、なんて軽やかで愛おしくて心地よい短歌なんだろうと感じたことは記憶に新しいです。「てんとろり」や「七月のフルート奏者」も近いうちに絶対読もう。

 

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