仄暗いほど柔らかい

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「月に吠えらんねえ」を読んだ詩的私的な感想

 その日は空腹だったと思う。
 青猫のそばで、二極両面のジレンマを、祝福と惨状を見ていた。どちらも酷く気持ち悪かった。
 ああ、この生温い空気ですら今は心地良い。しかしこれは現実の私の話だった。
 きっと何かを願ってしまったのが始まりだったのだ。それも殆ど無意識の内に。それに従って歪みが生まれた。歪みはそのまま世界の歪みへと繋がった。戦争詩が意味するものとは何だろう。詩人が書いた祝福も、軍人が書いた惨状も、何も間違ってはいなかった。それが求められたのだ。
 始めから設置されていた死体を見た時から、私は何かを孕まされていたのだろう。空腹を忘れ、不穏に満ち、それを抱いたまま生活していた。孕んだ子らとはただの詩ではなかったのか?増殖を続けた子らは母体を蝕み、やがて滲み出し、私の大切な人を殺していた。
 ただ日常を生きることは出来なかったのか?今はそれを願わずにはいられない。彼らが変わってしまったと言えども、寧ろどうして変わらずに居られようか。あの日が始まりだったと明確な線を引くことが出来るか?もし線が引けてしまうのであれば、それは生まれからのさだめだったのだ。
 ああ私の死体が積み重なっている。まるで私を間違いだと言うかのように。間違い続けてきたのだと、そう言うように。
 私は取り戻すのだ。ようやく世界を考えねばならないときが来たのだ。私の虚ろな目はこの崩れゆく世界を見るためのもの。この身はもう実体が危うい。いまや未知の粒子の集まりのようなもの。それでもまだ歩かねばならない。私はまだ生きているのだ。空腹だ。余りにも空腹なのだ。

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 「月に吠えらんねえ」は何よりもやはり言葉の威力が凄まじい。一番最初に出てくる「おれは日ましにするどくなってくる ...」の詩から既に慄いてしまう。それは漫画のストーリーの中に組み込まれることで、より迫力が増している。

 現在8巻まで刊行されているこの漫画。もう終わりはそう遠くない様に思えますがどうなのでしょう。

 気になった方は是非読んでみて下さい。

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「雪国」や「伊豆の踊子」を楽しめなかった人に薦めたい川端康成作品5選!

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「雪国」や「伊豆の踊子」で有名な川端康成。しかし、読んでみたら全然よく分からない。これがノーベル賞なのか?そんな風に思った人もいるかと思います。
 今回はそんな人にもお勧めできる "面白い" 川端康成作品を紹介します。

 

 

1.みずうみ

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【内容】

美しい少女を見ると、憑かれたように後をつけてしまう男、桃井銀平。教え子と恋愛事件を起こして教職の座を失ってもなお、異常な執着は消えることを知らない。つけられることに快感を覚える女の魔性と、罪悪の意識のない男の欲望の交差――現代でいうストーカーを扱った異色の変態小説でありながら、ノーベル賞作家ならではの圧倒的筆力により共感すら呼び起こす不朽の名作である。

 

2. 花のワルツ

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【内容】

バレリーナの友田星枝と早川鈴子の物語。
星枝はマイペースで天才型。
鈴子はそんな星枝にライバル心と一種のイライラ感を抱いていた。
弟子の関係を取り繕う竹内、その竹内はひとり身であり気を使うすずこ。
ある日、彼女たちにとっては兄弟子にあたる南条が日本に帰ってくることを知る。

 

3. 古都

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【内容】

捨子ではあったが京の商家の一人娘として美しく成長した千重子は、祇園祭の夜、自分に瓜二つの村娘苗子に出逢い、胸が騒いだ。二人はふたごだった。互いにひかれあい、懐かしみあいながらも永すぎた環境の違いから一緒には暮すことができない……。古都の深い面影、移ろう四季の景物の中に由緒ある史蹟のかずかずを織り込み、流麗な筆致で描く美しい長編小説。

 

4. 眠れる美女

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【内容】

波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女――その傍らで一夜を過す老人の眼は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している。熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の名作「眠れる美女」のほか「片腕」「散りぬるを」。

 

5. 掌の小説

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【内容】

唯一の肉親である祖父の火葬を扱った自伝的な「骨拾い」、町へ売られていく娘が母親の情けで恋人のバス運転手と一夜を過す「有難う」など、豊富な詩情と清新でデリケートな感覚、そしてあくまで非情な人生観によって独自な作風を打ち立てた著者の、その詩情のしたたりとも言うべき“掌編小説"122編を収録した。若い日から四十余年にわたって書き続けられた、川端文学の精華である。

 

以上5選になります。

 基本的に読みやすいものを選択いたしました。川端康成作品の中でも比較的ストーリー的でありながら、持ち味ともいえる文体、表現を楽しめると思います。

 個人的に特におすすめなのは「花のワルツ」です。ここには「イタリアの歌」「花のワルツ」「小雀」「朝雲」が収録されているのですが、花のワルツと朝雲がめちゃくちゃ良いです。朝雲に関してはラストの一文がこの上なく好きで、読み返す度にいいなぁと思えます。

 また「眠れる美女」も老人が相対する女たちの描写は、一人一人違う妖艶さを持っていて、どれも恍惚としてしまいそうな描写力に圧倒されます。同時に収録されている「片腕」もある女性から借りた片腕を抱いて眠りについていく様子が異常でありながら、魅惑的です。

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「失われた時を求めて」を読むために、或いは楽しむために重要な本5冊.

 フランス文学の中でもとりわけ存在感の大きいマルセル・プルーストの「失われた時を求めて。その膨大なテキストに対し、多くの批評家が様々な視点からこの物語を解析しているのだが、そのどれを取ってみても面白い!しかし、この小説は逃げ水の様な小説だ。いつまでも捕まえられる気がしない。少し近づいては、その分遠ざかっていく。そう意味では一生抱えて行くことのできる小説である様にも思える。

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 この小説は、解説やストーリーの展開を知ってから読んでも、それが作品を楽しめなくするという事は絶対にありえない。なので、まだ小説を読破して無いという方も安心して頂きたいのです。あの物語には一体何が隠れているのか。それを冒険するかのように探っていくために今から紹介する書籍は必読です。

 さて、プルーストに関連する書籍を紹介していきたいと思います。

 

 

1. 鈴木道彦「プルーストを読むー『失われた時を求めて』の世界」

プルーストを読む―『失われた時を求めて』の世界 (集英社新書)

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内容プルーストは二十世紀西欧を代表する作家で、世界の文学に絶大な影響を与えた。フランスでは彼を読まずに文学に志す人はいないと言っていいほどで、その評価は時代とともにますます高まってきている。十九世紀末から「ベル・エポック」にかけての社会を華やかに描き上げた作家であるとともに、現代文学の先駆者でもある。彼の扱った意識や夢、記憶、愛、スノビズムユダヤ人、同性愛、文学の意義などは、今日の問題であり続けている。本書は、大作『失われた時を求めて』の個人全訳を完成した著者が、重要なテーマをスケッチしながら作品を紹介・解説する、贅沢な入門書。密度が濃く、大部な作品を堪能した充実感で、入門者も研究者も満足できる。

個人的な感想

 日本におけるプルースト研究において、主人公である「私」に関する批評の第一人者であり、作品の翻訳も手掛けている鈴木道彦氏によるプルースト入門で、何と言っても分かりやすく面白い。プルーストを読むならまずこれを読むのが一番です。

 

 私的には一番読むべき新書だと思っているので、目次も示しておきます。

【目次】

はじめに:私はどんなふうに『失われた時を求めて』を読んできたか

 

 第一章:プルーストの位置

現代文学における特権的地位 / マルセル・プルーストの生涯 / 二十世紀文学の先駆者 / 最後の十九世紀作家 / 主観を通して描く

第二章:虚構の自伝

伝記への関心 / 一人称主人公 / 自伝と虚構 / 無意志的記憶

         Point: 無意志的記憶についてはプルースト特有で重要!

第三章:初めにコンブレ―ありき

読書する少年  / 「書く」という行為  / 二つの「方」

         Point: 二つの「方」は重要!

第四章:憧れのゲルマント侯爵夫人または想像力と知覚

教会 / 固有名詞と想像力 / 想像力と知覚

第五章:フォーブル・サン=ジェルマン

フォーブル・サン=ジェルマンと何か / 名前の時代 / オペラ座 / 水族館のイメージ / サロン / 神話の解体その一(才気) / 神話の解体その二(芸術) / 神話の解体その三(社交の快楽)

         Point: サロンに関する記述は重要!

 第六章:社交界とスノブたち

ヴェルデュラン夫人のサロン / スノビスム / ルグランダン / カンブルメール侯爵夫人 / スノビスムと他者 / なぜスノブを描くのか / 凡庸なる人物の時代

         Point: スノビスム、スノブに関する記述は重要!

第七章:スワンまたは世紀末のユダヤ

シャルル・スワンの様々な顔 / 世紀末のユダヤ人 / シャルル・アース / ブロックまたは下層のユダヤ人 / ドレーフェス事件

第八章:シャルリュス男爵または孤高の倒錯者

タブーへの挑戦 / ソドムとゴモラ / ユダヤ人と同性愛者 / 性愛の殉職者 / シャルリュスの孤立

         Point: ソドムとゴモラに関する記述は重要!

第九章:アルベルチーヌまたは不可能な愛

海辺の美少女たち / 「所有」ということ / 嘘 / 囚われの女 / 眠る彼女をみる / 逃げ去る女 / 主観的な愛

第十章:芸術の創造と魂の交流

エルスチールと隠喩 / ヴァントゥイユの音楽 / 調子 / 魂の交流 / 記憶と印象 / ふたたび無意志的記憶 / 知性の悲惨と栄光 / 知性と普遍性 / 時の発見

         Point: 時の発見についての記述は重要!

終章:読書について

 

 これを読めば、まずこの膨大な文章の中にどういったものが書かれているのかを大まかに理解できると思います。

 

2. アントワーヌ・コンパニョン, ジュリア・クリステヴァ他「プルーストと過ごす夏」

プルーストと過ごす夏

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内容:二十世紀文学の最高峰と言われる、プルースト失われた時を求めて』。この大作に挑戦するには、まばゆい日差しのもと、ゆったりとした時間が流れる夏休みが最適だ―。本書は、現代フランスを代表するプルースト研究者、作家などが、それぞれの視点から『失われた時を求めて』の魅力をわかりやすく語った、プルースト入門の決定版である。

 

3. 土田友則「現代思想のなかのプルースト

現代思想のなかのプルースト

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内容:ベンヤミンバタイユ、バルト、ドゥルーズ――綺羅星のごとき思想家たちは、誰もが魅惑の書『失われた時を求めて』を手にし、語らずにはいられなかった。この20世紀小説の金字塔に彼らは何を見たのか? この作家の何がこれほどまでに彼らを惹きつけたのか。縦横に読み解かれる8人の論が交錯するその地点に、かつて誰も目にしたことのない現代思想の核心が浮かび上がってくる。前人未到の野心的企て!

 

3. ジョゼフ チャプスキ「 収容所のプルースト

収容所のプルースト (境界の文学)

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内容:1939年のナチスソ連による相次ぐポーランド侵攻。このときソ連強制収容所に連行されたポーランド人画家のジョゼフ・チャプスキ(1896 - 1993)は、零下40度の極寒と厳しい監視のもと、プルースト失われた時を求めて』の連続講義を開始する。その2年後にチャプスキは解放されるが、同房のほとんどが行方不明となり、「カティンの森」事件の犠牲になるという歴史的事実の過程にあって、『失われた時を求めて』はどのように想起され、語られたのか? 現存するノートをもとに再現された魂の文学論にして、この長篇小説の未読者にも最適なガイドブック。

* 「カティンの森」事件……第二次世界大戦中にソ連の内務人民委員部によって2 万人以上に及ぶポーランド軍将校、官吏、聖職者らが虐殺された事件。アンジェイ・ワイダ監督による映画『カティンの森』(2007)でも知られる。

 

4. 工藤庸子「プル―ストからコレットへ」

プルーストからコレットへ―いかにして風俗小説を読むか (中公新書)

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内容:世紀末から1920年代、パリの文壇にあった2人の作家は、政治思想や倫理道徳の価値基準とは無縁の世界を生き、書き綴った。それが過ぎ去った時代の証言としてたえず読み返されるのはなぜか。小説だけがすくいとることのできる時代精神のありよう、すなわち「風俗」があざやかに映し出されているからである。本書は「風俗を反映しつつそれ自体が風俗的存在でもある文学」という観点から作品を読み、時代の中に位置づける試みである。

 

5. ジル・ドゥルーズプルーストシーニュ-文学機械としての『失われた時を求めて』」

プルーストとシーニュ―文学機械としての『失われた時を求めて』 (叢書・ウニベルシタス)

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内容:プルーストの評論の中で、この本ほどプルーストの作品の内奥まで深く降りてゆき、また作品の外観を精緻に分析した書物はないと思う。ドゥルーズの視線は、常に両義的である。例えば、「失われた時を求めて」は、記憶を辿った物語であるというのが一般的な見方かもしれないが、ドゥルーズは、習得という観点を導入して作品を読み解く。世界は習得の過程の中で揺れ動き、最終的には芸術の啓示に到達する、という具合にである。そして、「失われた時を求めて」はシーニュの解読である、と。「愛のシューニュ」は、暴露するものと隠そうとするものとの矛盾の中に捉えられる。つまり、主観が形成するものと、裏切るものの矛盾である。(例えば、アルベルチーヌとの恋愛。)次に、「感覚的シーニュ」の中には、存続と虚無の対立が残っている。(ソドムとゴモラの世界。)そして、芸術のシーニュにおいて、真理が啓示される。(時の啓示。)小説を最後まで読み終えたことのある者ならば、作品がどういう過程を辿るのか知っているだろうが、ドゥルーズはその一つ一つの意味を我々に独自の観点から提示してくれる。また、ドゥルーズの他の哲学書との関連性から読んでも、この本は読み応えがあると思う。「本質はそれ自身において差異である。しかし本質は、それ自身に対して同一のままおのれを反復する力を持たない限り、多様化する力と、おのれを多様化する力を持つことはない」というような記述があるが、それが作品の分析の中で展開されるのである。プルーストの愛読者にも、ドゥルーズの哲学書の愛読者にもお勧めの一冊である。