仄暗いほど柔らかい

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笹井宏之「てんとろり」から、好きな短歌5首

 前回に引き続き、今回は「てんとろり」から5首!「てんとろり」には「ひとさらい」よりも更に多くの短歌が収められているので、本当は5首では足りないところですが・・・

 まずは何といってもこれです。

風。そしてあなたがねむる数万の夜へわたしはシーツをかける

  夜の街に大きな白いシーツが覆うようなイメージがなんとも柔らかく優しい雰囲気を思わせる。「数万の夜」という表現にも、個人には個人の夜があるのだという意味を感じます。冒頭に置かれた「風。」によって、シーツはより滑らかに波立つようで、何度読んでも色褪せない短歌だと思います。

さあここであなたは海になりなさい 鞄は持っていてあげるから

 なんだろうこの特別感は。「海になる」というかけ離れた事柄に対して「鞄は持っていてあげる」という言葉には、さあ行ってきなさい、とか、今のうちにやっておきなさい、という様なたくましい送り出しの念を感じます。

あとほんのすこしの辛抱だったのに氷になるだなんて ばか者

 ここまでの3首をみても、やはり笹井宏之さんの短歌にはSF的な詩情を感じます。しかしSFといっても殆ど現代そのままで、現実的なSFという感じでしょうか。

今夜から月がふたつになるような気がしませんか 気がしませんか

  気がします。二回も言われたらなんだかそんな感じがしてくるし、これまで笹井さんの短歌を幾つも読んできたからこそそう思えるのです。ふたつになる気がします。

かなしみにふれているのにあたたかい わたしもう壊れているのかも

 わたしもう壊れているのかも、という一文があまりにも哀しい。

 

5首ではやはり紹介しきれない。笹井宏之の短歌はもっとすごいのだ。是非歌集を買ってほしい。彼の短歌の世界はあまりにも繊細で滑らかで柔らかいのです。

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