舞城王太郎の「ディスコ探偵水曜日」がとんでもない作品だった
この三日で舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日」を読んだ。久しぶりに読んだ舞城作品であり、その中でも一番の長編であるこの作品を読んでしまったのは幸か不幸かはたまたその間にある謎の場所か、簡単に言ってトンデモない作品だった。
きっと数あるミステリーの中でも、これほど二転三転するものは無いかと思う。いや、そもそもミステリー小説ではない事ははっきりと言っておきたいのだが、それにしても謎に溢れ、登場人物が語る言葉や突然の出来事、そのすべてに意味があるのだ。そうしてウェンズデイは駆け巡る。読んだことのない人はまず読むことをおすすめする。
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※ここからはネタバレを含みます、が、未読の方が読んでも何を言っているか分からないと思うので、読んでも平気かもしれません。
そもそも5歳の梢の中に未来の梢が入ってくるところから物語が始まり、その間5歳の梢が何処にいるのかとなったあげくにパインハウスにたどり着く。
そして驚くべきは、そのパインハウスで起きた暗病院終了よろしく三田村三朗の怪死に対して語られる、名探偵たちの推理だ。間違えたら目に箸を挿して死んでしまう中で、大爆笑カレーやジュディ・ドールハウス、蝶空寺兄弟、八極幸有、桜月淡雪、美神二瑠主などが推理を披露していく。その一つ一つの推理があまりにも突飛でありながらも読者を納得させていく。特に上巻最後、八極幸有の推理は或る意味世界をひっくり返す程のものでありながら、直ぐにそれが否定されるというホットケーキ構造だった。
全てを把握したかの様に推理をしては、真実が逃げ水の様に遠ざかって間違いとなり、眼に箸を挿して死んでいく。更に大爆笑カレーは九十九十九として復活し、推理を披露し、間違え、また死んでいく。ルンババ12が現れたことで、遂にウェンズデイの推理が炸裂する。時空間を操ることで、円状の回廊を元である直線に戻し、暗病院終了は自ら自身の背中を撃って自殺したのだと。
事件が解決しようとも、梢が黒い鳥の男に犯されることから守ることが出来ない。黒い鳥の男はウェンズデイよりも時空間の操作が上手く、倒せない。
と、ここまで書いて。かなり大筋しか書いてないが、あまりにも常軌を逸しているなあと思います。
さて、ノーマ・ブラウンの提唱した「折り返し宇宙論」にそってウェンズデイは謎を少しずつ解決していき、未来にも過去にも行けるようになり、その仕組みや構造も分かってくる。折り返しに当たるラグナレクにある白い壁、世界の果てを見つけ、梢を虐待から救う。更に、未来で梢が虐待される理由を知るとともに、その異常な世界から子供を守るために、三億人の子供を匿うための場所を世界の外に見つける。そして、子供を救う準備がそろったところで名探偵たちを匿うための世界に行ってもらう。
そして、ラスト。皆があちらの世界に行ってしまったところで、黒い鳥の男が現れウェンズデイは殺されそうになるが、間一髪で未来の梢である森永小枝と水星Cによって助けられ、小枝といることを誓ってEND。
推理においても、すべてが間違うために用意周到に作者によって配置されていて、読者としてはもう何が何だか分からなくなるレベルなのだが、発想があまりにも天才的である。全てに意味があるのだ。と作中で幾度も出てくるのだが、余りにも意味が溢れすぎているのがかなり面白い。「真実は逃げ水の如く近づけば遠ざかる」というのも面白い。
この小説のラストには愛が設置されている。そこで終わらせるのも、これまで著者が書いてきた作品を思えば舞城らしいかもしれない。更に舞城作品はけっこうメタっぽい構造だ。ルンババが出てきたり、世界は密室でできている、という事だったり。愛媛川十三だったり。
因みに、舞城王太郎原作、大暮維人絵で連載中の漫画、「バイオーグ・トリニティ」も世界の構造的なものの正体を暴くバトル漫画である。この中でも、愛は祈りだとか、世界は密室でできているなど、舞城らしさが全開で面白いです。
さあ、余りにも書ききれていない感は否めないのだが、この読書体験は貴重だったと思える。
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